ベトナム不動産の賃貸利回りは「高い」という情報だけが先行しがちですが、エリアによって表面利回りと実質利回りの乖離は大きく、同じホーチミンでも区によって数字が大幅に変わります。AFP・宅地建物取引士として東南アジア不動産を実務視点で追う私、Christopherが、ホーチミン・ハノイ・ダナンの3エリアを5つの指標で検証した実例を紹介します。
ベトナム不動産賃貸利回りの基礎知識:日本との比較で理解する
表面利回りと実質利回りはなぜこんなに違うのか
日本の区分マンション投資で表面利回り5〜6%の物件を「悪くない」と評価する感覚が染み付いている方には、ベトナムの数字は最初、魅力的に映ります。ホーチミンの主要エリアでは表面利回り7〜9%の物件が普通に流通しており、ハノイでも6〜8%前後の数字が並びます。
ところが実質利回りを計算すると話は変わります。管理費・固定資産相当の税・エージェント手数料・修繕費・空室損失を控除すると、実質利回りは表面の60〜70%程度まで落ちるのが実態です。これは日本も同じ構造ですが、ベトナムでは「現地管理費の見えにくさ」と「賃借人交渉の難しさ」が上乗せされるため、計算をサボると痛い目に遭います。
私が宅建士として日本の物件を見る際も同じ視点で分析しますが、海外不動産は日本の宅建業法の適用外であり、重要事項説明書のような統一書式が存在しません。情報の非対称性が日本国内より著しく大きい点は、最初に理解しておくべき前提です。
外国人所有規制と利回りへの影響
ベトナムでは2015年に改正住宅法が施行され、外国人・外国法人も一定条件のもとで区分所有マンションを取得できるようになりました。ただし保有期間は50年(更新可)、一棟あたりの外国人保有比率は30%以内という制限があります。
この「30%枠」は利回りに直結する問題です。外国人枠が埋まっている物件は外国人投資家への売却が難しく、出口戦略が狭まります。出口が詰まれば値上がり益を享受しにくいため、賃貸収益で回収しきる計画が必要になります。利回り計算の前に所有権の性質を確認することは、不動産投資の基本です。また、現地での課税ルールや送金規制は日本と異なるため、税理士や現地専門家への相談を強く推奨します。
フィリピン物件を持つ私がベトナムを比較検討した理由
マニラの新興エリアでプレセールを経験して気づいたこと
私は現在、フィリピン・オルティガスエリアのプレセールコンドミニアムを保有しています。購入を決めた時、最も時間をかけたのはデベロッパーの財務健全性と賃貸需要の裏付けでした。表面利回りの数字はいくらでも作れます。重要なのは「誰が、いくらで借りるか」というリアルな需要層の把握です。
オルティガスでは、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)企業に勤める外国人駐在員と現地ホワイトカラー層が主な賃借人でした。月額賃料は物件タイプにもよりますが、1ベッドルームで2〜3万フィリピンペソ(日本円換算で概算5〜7万円前後)というレンジが一つの目安として語られていました。ただし為替レートの変動により、円換算額は大きくブレます。為替リスクは常に存在することを忘れてはいけません。
この経験を経て、ベトナム不動産の賃貸利回りを検討する際には「エンドユーザーの職種・国籍・生活水準」を最初に調べるようにしました。フィリピンとベトナムでは需要層の性質が異なり、一括りにした分析は危険です。
保険代理店時代の富裕層相談で見えた海外不動産の盲点
私はかつて大手生命保険会社に2年、その後総合保険代理店に3年勤務しました。その間、個人事業主や富裕層の資産相談を多数担当した経験があります。そこで気づいたのは、海外不動産に手を出して後悔している方のパターンがほぼ共通していたことです。
最も多かったのは「表面利回りだけで判断し、管理コストと空室期間を甘く見た」ケースです。特に東南アジア不動産では、現地管理会社に丸投げした結果、実態をほとんど把握できないまま数年が過ぎていた方が少なくありませんでした。不動産は所有してからがスタートです。管理の仕組みを自分でコントロールできるか、という視点はベトナム投資でも同様に問われます。
ホーチミン3区の実例検証:都心集積が生む高利回りの実態
3区・1区・ビンタン区の賃料水準と利回り比較
ホーチミンは区によって物件価格と賃料の水準が大きく異なります。1区(ドンコイ通り周辺)は物件価格が高く、2024〜2025年時点では70〜100㎡の中級コンドミニアムが50万〜80万米ドル前後で流通している事例も報告されています。これに対して賃料は月1,500〜2,500米ドル程度のレンジが多く見られ、表面利回りは3〜4%台に落ちるケースもあります。
一方、3区はビジネス街と住宅街の中間地帯として外国人駐在員の需要が安定しています。物件価格は1区より2〜3割低いケースが多く、賃料水準は月1,000〜1,800米ドル程度のレンジが報告されています。結果として表面利回りは6〜8%程度に達しやすいとされています。ただしこれらはあくまで市場で語られる参考値であり、個別物件によって大幅に異なります。
ビンタン区は近年の再開発で注目されており、新築ハイグレード物件の供給が増えています。ただし供給過多になると空室率が上昇し、利回りを押し下げるリスクがあります。ホーチミン不動産投資を検討する際は、エリア内の新規供給量と吸収速度を確認することが重要です。売掛金 早期回収 方法7選|AFP宅建士が500人相談で導いた実例
管理費・税・エージェント費用を差し引いた実質利回りの試算
仮に物件価格30万米ドル、月賃料1,500米ドルの物件で試算します。年間賃料収入は18,000米ドルなので、表面利回りは6.0%です。ここから管理費(賃料の8〜12%)、物件管理組合費(年間500〜1,000米ドル)、修繕積立相当、エージェント紹介料(賃料1か月分)、空室損失(年間1〜1.5か月分を想定)を差し引くと、実質的な手取り収入は12,000〜13,000米ドル前後になることが多いとされます。
実質利回りに換算すると4.0〜4.3%程度です。日本円換算ではさらに為替レートの影響を受けます。「表面6%」の数字が「実質4%」に落ちることは珍しくなく、この差を事前に把握していない投資家が後悔するパターンは非常に多いです。計算の出発点を表面利回りではなく実質利回りに置くことが、海外不動産利回りを正確に評価する基本姿勢です。
ハノイ中心部の利回り構造:政治的安定と公務員需要の影響
ハノイ賃貸利回りを支えるテナント層の特性
ハノイはベトナムの首都として政府機関・大使館・国際機関が集中しています。このためテナント層には外交官、多国籍企業の管理職、国際NGOのスタッフなどが含まれ、比較的安定した賃貸需要が形成されています。ホーチミンのようなBPO需要とは性格が異なり、長期契約を結ぶテナントの比率が高い傾向があります。
ハノイ中心部(ホアンキエム区・バーディン区周辺)の物件価格はホーチミン1区より概ね1〜2割程度低い水準で推移しているケースが多く報告されていますが、2024年以降は価格差が縮小傾向にあるとも言われています。月賃料は1,000〜2,000米ドル程度のレンジが一つの目安とされており、ハノイ賃貸利回りは5〜7%台が報告されています。ただし物件の仕様・立地・管理状態によって差異が大きく、数字を鵜呑みにしないことが重要です。
ハノイ特有のリスク:洪水ハザードと都市インフラの整備状況
ハノイには気候・インフラ面での固有リスクがあります。ホン川(紅河)周辺の旧市街は雨季の浸水リスクが報告されており、物件の立地によっては管理コストが上昇する可能性があります。また地下鉄整備は進んでいますが、2025年時点で路線数は限定的であり、車社会の交通渋滞が賃貸ニーズの立地選好に影響します。
私が宅建士として物件調査の基本として押さえるのは「ハザード・アクセス・供給量」の三点です。日本では水害ハザードマップの開示が義務化されていますが、ベトナムではこれに相当する公的情報の整備水準が異なります。現地デューデリジェンス(実地調査)を省くことは、利回り計算以前の問題です。個人差はありますが、現地に精通した専門家や信頼できるエージェントとの連携を検討することを推奨します。海外移住オーストラリア不動産賃貸比較|宅建士が検証した5判断軸
ダナン観光エリアの収益性:短期賃貸と長期賃貸の二択をどう判断するか
観光需要が作る高利回りの可能性とその不安定さ
ダナンは中部ベトナムの観光都市として、日本人を含むアジア系観光客の旅行先として定着しています。ダナン物件の特徴は、エアビーアンドビー等を活用した短期賃貸が機能しやすいエリア特性にあります。ビーチ沿いのコンドミニアムでは繁忙期(12月〜4月の乾季)に1泊60〜120米ドル程度で稼働する事例が報告されており、表面利回りで10%を超えると宣伝されるケースもあります。
ただし観光需要は季節変動が大きく、雨季(9〜11月)は稼働率が大幅に落ちます。通年平均で稼働率60〜70%を維持できるかが収益性の分岐点です。また、ベトナム当局による短期賃貸の規制動向は流動的であり、法令変更リスクも念頭に置く必要があります。安定した収益を優先するなら、観光需要依存のダナン物件は長期賃貸物件と比べてリスクプロファイルが異なることを認識してください。
ダナン長期賃貸の現実:駐在員需要の薄さと価格上昇の関係
ダナン物件の長期賃貸需要の主体は、外資系ホテル・リゾートへの赴任者、教育機関の外国人講師、リタイア後の移住者などです。ホーチミンやハノイと比べてビジネス集積が少なく、駐在員需要の厚みで劣ります。月賃料700〜1,200米ドル程度のレンジが報告されていますが、空室期間が出やすい構造は否定できません。
一方で物件価格は2020年代に入って上昇傾向が続いており、キャピタルゲイン(値上がり益)を見込んだ購入層が増えています。ただし価格上昇が続く保証はなく、供給過多になれば値下がりの可能性もあります。賃貸利回りだけで判断するのではなく、出口戦略(売却時の買い手層・流動性)を含めて検討することが重要です。
5指標で見る投資判断軸:まとめと次のアクション
宅建士が使う5つのチェック指標:ベトナム不動産賃貸利回りの評価フレーム
- ①実質利回り(表面利回りから管理費・空室損失・税を控除):表面利回りの数字だけで判断せず、実質利回り4%以上を目安として検証する。ベトナムでは表面と実質の差が1.5〜2%程度生じるケースが多い。
- ②空室リスク(テナント層の職種・需要の分散度):単一の需要層(観光客のみ、特定業種の駐在員のみ)に依存する物件は空室リスクが高い。ホーチミン3区のように複数の需要層が存在するエリアは比較的安定しやすい傾向がある。
- ③出口流動性(外国人保有枠・買い手層の厚み):外国人保有比率30%上限に対する現在の埋まり具合を確認する。枠が満杯の物件は出口が制限されるため、賃貸利回りで回収しきる計画が必要になる。
- ④為替・送金リスク(米ドル建て賃料と円換算の変動幅):ベトナムの賃料は米ドルまたはベトナムドン建てが一般的。円安・円高の変動が収益を左右する。過去5年の為替変動幅を前提に保守的なシナリオで計算することを推奨する。
- ⑤法務・税務リスク(現地規制の変更可能性・日本での確定申告義務):ベトナムの不動産関連法令は改正頻度が高く、規制変更により利回り前提が崩れる可能性がある。また、日本居住者はベトナムでの賃料収入も日本の確定申告対象となる。税務については必ず税理士に相談することが必要。
次のアクション:物件価値の客観的な把握から始める
ベトナム不動産の賃貸利回りは、エリア・物件タイプ・テナント層・管理体制の4変数が組み合わさって初めて意味のある数字になります。私がフィリピンのプレセール購入を決めた時も、最終的な決め手は「第三者による物件評価」でした。販売業者が提示する利回り試算は、楽観的な前提が積み重なっているケースが少なくありません。
現在保有している物件の評価、あるいは検討中の案件について、公平な立場から意見を得ることは非常に重要なプロセスです。特に海外物件は国内での情報収集に限界があるため、専門機関を活用することを選択肢の一つとして検討してください。不動産に関するトラブルや疑問点を抱えている場合は、一般社団法人が提供する公平な査定サービスを活用することで、客観的な視点を得る一助になります。個人の状況によって最適な判断は異なりますので、専門家への相談を前提として情報収集を進めてください。
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の投資・税務・法務行為を推奨するものではありません。記載内容は執筆時点の情報に基づきますが、最新情報や個別具体的な判断については、各分野の専門家(税理士・弁護士・宅建士・FP等)または公的機関にご相談ください。
【執筆・監修】
Christopher(AFP / 宅建士 / TLC)- 金融・不動産・法人実務の実体験ベースで執筆
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