2020年度税制改正により、個人が国外中古不動産から生じる減価償却費を給与所得や事業所得と損益通算する手法は、事実上封じられました。私はAFP・宅建士として、フィリピンとハワイに実物不動産を保有しながら、この改正が資産形成に与える影響を当事者として検証してきました。本記事では、改正の核心から法人移管の活用余地、そして改正後の出口戦略まで、5つの論点に整理してお伝えします。
論点①:2020年改正の核心と適用範囲を正確に押さえる
「耐用年数の短期化」を利用した節税スキームが狙い撃ちされた
改正前、多くの富裕層が活用していたのは、木造・RC造を問わず「中古の海外不動産」に対して算定される短い耐用年数と、そこから生まれる大きな減価償却費を、国内の高額給与と損益通算するスキームでした。たとえば法定耐用年数を超えた木造物件であれば、残存耐用年数がわずか4年と算定され、取得価格の大部分を短期間で経費化できた時代があります。
2020年度税制改正(所得税法第41条の4の3新設)は、この構造にメスを入れました。個人が国外中古建物(海外の中古不動産)から生じる不動産所得の損失のうち、減価償却費に相当する部分については、他の所得との損益通算を認めないという規定です。適用開始は2021年(令和3年)分の所得税から。改正後は、減価償却費によって作り出された「帳簿上の赤字」は、その物件の損失としてのみ認識され、給与や事業収入を圧縮することはできなくなりました。
適用範囲の「境界線」はどこにあるか
重要なのは、この規制が「個人・国外・中古」という3要素が重なった場合に適用される点です。国内の中古不動産は対象外。新築の海外不動産も原則対象外。そして、法人名義の海外不動産も今回の改正の直接的な適用範囲ではありません。この「法人は対象外」という点が、改正後の実務対応において最も注目される論点です。
また、損益通算の制限はあくまで「減価償却費相当分」であり、管理費や修繕費などの実費支出に基づく損失は引き続き他の所得と損益通算できます。改正をすべて「節税完全封じ」と解釈するのは過剰であり、正確な線引きを理解することが改正後の投資判断において不可欠です。
論点②:私がフィリピンとハワイで直面した改正の現実
フィリピン・プレセール物件で気づいた「新築」という選択の意味
私がフィリピン・マニラ新興エリアのプレセールコンドミニアムを購入したのは、改正議論が本格化し始めた時期と重なります。当時、総合保険代理店に勤務しながら個人事業主や富裕層の資産相談を担当していた私は、「中古海外不動産を使った損益通算スキームがいつ規制されてもおかしくない」という肌感覚を持っていました。
プレセール(竣工前購入)の場合、引き渡し時点では「新築」扱いとなります。減価償却の計算上も法定耐用年数がフルに適用されるため、耐用年数を短縮することで生まれる「過大な減価償却費」という問題が構造的に発生しにくい。結果的に、私の物件は2020年改正の直撃を正面から受けずに済んだ形です。ただし、為替リスク(フィリピンペソ建てでの資産評価)や現地の法律・登記制度の違いは別途しっかり確認が必要で、専門家への相談は欠かせませんでした。
ハワイのタイムシェアと保険代理店時代の富裕層相談から見えたこと
ハワイの主要リゾートで保有しているタイムシェアは、性質上、一般的な不動産の減価償却スキームとは異なる位置づけです。ただ、保険代理店勤務時代に担当した富裕層のお客様の中には、「ハワイの中古コンドミニアムを個人名義で取得し、減価償却で所得を圧縮する」スキームを複数年にわたって活用していた方が複数いらっしゃいました。
2020年改正が現実のものとなった後、そうしたお客様から「今後どうすべきか」という相談が集中したことを鮮明に覚えています。私の立場はあくまでAFP・宅建士であり、具体的な税務判断は税理士に委ねましたが、「法人移管という選択肢が現実的かどうか」を整理する場面では、宅建士としての不動産知識と保険・金融の両面からの視点が活きました。個人差はありますが、その経験が本記事の論点整理の土台になっています。
論点③:法人移管で残る活用余地と見落とせないコスト
法人は今回の改正対象外——ただし「別のリスク」がある
2020年改正は所得税法の改正であり、法人税法には直接適用されません。したがって、法人名義で国外中古不動産を保有し、減価償却費を損金算入する手法は、現時点では制度上残っています。法人の課税所得を圧縮できるという意味では、法人移管は「改正後の節税封じ込めへの対応策」として検討する価値があるのは事実です。減価償却 個人事業主のやり方完全版|AFPが5年実践した7ステップ
ただし、ここで注意が必要です。まず、個人から法人への不動産移管には「みなし譲渡課税」の問題があります。個人が法人に時価より低い価格で不動産を売却すると、時価との差額に対して課税される可能性があります。次に、海外不動産を法人が保有する場合、現地国での法人の扱い・外国人(外国法人)の土地保有規制・現地での納税義務など、国によって異なるルールが存在します。フィリピンの場合、外国企業のコンドミニアム保有には床面積全体の40%以上を外国人・外国法人が保有できないという制限があります。海外送金・税務は国によって異なりますので、必ず現地の専門家と日本の税理士の両方に相談することを強くお勧めします。
法人移管シミュレーション:コストと節税効果の比較軸
法人移管を検討する際、私がお客様との相談で使ってきた比較軸は主に4点です。①移管時の譲渡所得税・登録費用など初期コスト、②法人維持コスト(法人住民税均等割など年間7万円〜)、③減価償却費の損金算入による法人税圧縮効果(実効税率約30〜35%での試算)、④将来売却時の法人税・配当課税の二重課税リスク。
たとえば取得価格が5,000万円規模の中古海外不動産であれば、短縮耐用年数が4年の場合、年間の減価償却費は1,200万円超になることもあります。法人の実効税率で試算すると、年間400万円前後の節税効果が見込まれる計算になりますが、移管コストや二重課税リスクを含めたトータルでの試算なしに「法人移管が得」と断言することは危険です。あくまで個別シミュレーションと専門家確認が前提です。
論点④:出口戦略と売却タイミングを改正後の視点で設計する
「減価償却が終わったら売る」は改正後も有効か
改正前の定番出口戦略は、「短期間で減価償却を使い切り、減価償却が終わった段階で物件を売却し、譲渡益に対する課税(長期保有なら20.315%)を受け入れる」というものでした。節税効果が高い所得税率(最大55%)と売却時の分離課税の税率差を利用した設計です。この構造自体は、改正後も「損益通算部分が制限された」だけであり、売却益に対する分離課税の仕組みは変わっていません。
ただし、改正後は「節税のために保有する」というモチベーションが薄れた分、物件の収益性そのもの——現地での賃料水準、空室率、為替動向——をより重視した保有継続判断が求められます。私自身、フィリピンの物件については、現地の賃料相場(エリアによっては月額10万〜20万円程度)と、ペソ/円の為替リスクを両にらみしながら、5〜7年の保有を前提とした出口設計を組んでいます。減価償却 個人事業主のやり方|5年目が30万円資産で実証
売却時の税務と「含み益の現地課税」に注意する
海外不動産を売却した場合、日本の居住者であれば日本での確定申告が必要です。同時に、現地国でも譲渡益に対する課税が発生するケースが大半です。フィリピンであれば、不動産売却益に対するキャピタルゲイン税(CGT)が課税されます。日本とフィリピンの間には租税条約が締結されており、二重課税の調整は可能ですが、実務的な申告処理は複雑です。
ハワイ(米国)の場合も、連邦所得税とハワイ州税が課税対象となり、FIRPTA(外国人不動産投資税法)による源泉徴収の手続きが売主側に求められます。売却益の10〜15%が源泉徴収される制度であり、確定申告で還付を受ける流れになります。海外不動産の出口戦略は、税務処理を含めて1〜2年前から弁護士・税理士との連携を始めることが実務上の基本です。個人の状況によって対応が大きく異なりますので、専門家への相談を強く推奨します。
論点⑤:改正後の海外不動産選定軸とまとめ
改正後に「残る」海外不動産投資の4つの評価軸
- 新築・プレセールの優先:中古物件の短縮耐用年数問題を回避できるうえ、エリア成長による値上がり期待も見込める。ただし完工リスク・デベロッパーリスクは別途評価が必要。
- 実収益(インカムゲイン)の確保:改正後は節税効果に頼らない収益設計が必須。現地の賃料水準・空室率・管理コストを精査し、NOI(純営業収益)ベースで3〜5%以上の利回りが見込めるか確認する。
- 為替リスクの管理:ペソ建て・ドル建てのいずれも為替変動リスクを伴う。ドル資産はある程度の円安耐性があるが、ペソは流動性・政治リスクも踏まえた分散が賢明。為替リスクゼロの手法は存在しないことを前提に設計する。
- 法人活用の可否を事前に設計:将来的な法人移管も視野に入れるなら、購入時から法人名義での取得を検討する方が移管コストを回避できる。現地国の外国法人規制との整合性を必ず確認すること。
改正を「終わり」ではなく「再設計の起点」と捉えてほしい
2020年の海外不動産減価償却改正は、確かに個人による節税封じ込めという側面を持ちます。しかしそれは同時に、「減価償却だけを目的にした質の低い物件選定」を見直す機会でもありました。私自身、AFP・宅建士として富裕層の相談を重ねてきた経験から言えば、改正後に「どの物件を選ぶか」の精度が上がった投資家の方が、中長期での資産形成においてより安定した成果を上げている印象があります。
海外不動産は日本の宅建業法とは異なる現地法律・登記制度・税制が適用されます。日本国内の常識がそのまま通用しない点も多く、現地の実情を踏まえた専門家との連携は省略できません。改正後の投資判断を「節税が使えないから撤退」で終わらせず、実収益・出口設計・法人活用の3軸で再構築することをお勧めします。個人の状況によって最適解は異なりますので、税理士・FP・現地コンサルタントへの相談を必ずご検討ください。
なお、海外不動産を法人名義で取得・運営する場合や、フリーランス・個人事業主として収益物件の管理費用を先払いしたい場面では、資金繰りの柔軟性が重要になります。報酬の即日先払いが必要な局面で選択肢の一つとして検討できるサービスをご紹介します。
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本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の投資・税務・法務行為を推奨するものではありません。記載内容は執筆時点の情報に基づきますが、最新情報や個別具体的な判断については、各分野の専門家(税理士・弁護士・宅建士・FP等)または公的機関にご相談ください。
【執筆・監修】
Christopher(AFP / 宅建士 / TLC)- 金融・不動産・法人実務の実体験ベースで執筆
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