2020年税制改正によって、海外不動産の減価償却を利用した損益通算が実質的に廃止されました。この改正は、個人事業主として節税スキームを活用していた投資家に特に大きな打撃を与えています。私はAFP・宅建士として、またフィリピンとハワイに実物不動産を保有する当事者として、海外不動産の減価償却廃止が個人事業主に与える影響を実務の視点から整理します。
海外不動産減価償却廃止とは何か|2020年税制改正の制度概要と背景
損益通算が封じられた仕組みを正確に理解する
2020年度税制改正(令和2年度)において、個人が海外不動産を用いた減価償却費を計上し、国内の事業所得や給与所得と損益通算する行為が制限されました。具体的には、国外中古建物から生じる不動産所得の損失(主に減価償却費に起因するもの)について、他の所得との損益通算および翌年以降への繰越控除が認められなくなりました。
改正前は、海外の中古物件を割安で取得し、日本の税法上の耐用年数計算(簡便法)を使って短期間に多額の減価償却費を計上することで、所得を圧縮するスキームが広く使われていました。特に個人事業主や高所得サラリーマンの間で「合法的な節税」として定着していたのは事実です。
国税庁はこのスキームを「租税回避の温床」と判断し、2020年4月1日以後に取得する国外中古建物だけでなく、既存保有者にも翌年以降の損益通算を遮断する形で改正を適用しました。個人事業主の節税手法として長年機能してきた仕組みが、一夜にして封じられた形です。
なぜ「廃止」ではなく「制限」なのかを把握する
厳密に言うと、今回の措置は海外不動産の減価償却そのものを禁止したわけではありません。減価償却費の計上は引き続き可能ですが、それによって生じた損失を国内の他の所得と通算できなくなった、というのが正確な整理です。
つまり、海外不動産の不動産所得がマイナスになっても、そのマイナスを個人事業主としての事業所得と合算して課税所得を減らすことはできなくなりました。損失はあくまで同じ不動産所得の中だけで完結します。この「制限」という実態が、多くの個人事業主にとって「廃止」と同義の打撃となっているのです。
私がフィリピン・ハワイ物件を保有して実感した影響
フィリピンのプレセール物件購入時に税務リスクを直視した経緯
私がフィリピン・オルティガスのプレセールコンドミニアムを購入を決めた時、最初に検討したのは「日本の税務上、どう扱われるか」という点でした。購入価格は約1,000万円台前半の円換算額で、プレセール特有の段階払いを活用したものです。
AFPとして資産設計を考える立場から、「完成後に賃貸に出した際、減価償却をどう処理するか」は購入前に税理士と詳細に確認しました。2020年改正以前であれば、フィリピンの中古建物(日本の簡便法適用)で大きな減価償却費を計上し、損益通算に活用する選択肢があったはずです。しかし改正後の制度では、その損失は事業所得との通算に使えません。
宅建士として海外不動産は日本の宅建業法の直接適用外であることは承知していますが、だからこそ現地法律・税務・為替リスクの三点を慎重に検討する必要があります。フィリピンペソの為替変動だけでも、円換算の収支を大きく左右します。実際に物件を保有している立場として、為替リスクは常に念頭に置くべきリスク要因です。
ハワイのタイムシェア運用で学んだ「税務と実態のズレ」
ハワイの主要リゾートエリアにあるマリオット系タイムシェアを保有していますが、タイムシェアの場合、通常の賃貸不動産とは税務上の扱いが異なります。利用権型のタイムシェアは建物の所有権を持つわけではないため、減価償却の対象となる「建物」の帰属が曖昧になりやすい点があります。
保険代理店で勤務していた頃、富裕層の顧客からタイムシェアと税務の関係について相談を受けたことが何度かあります。その経験から言えるのは、「海外不動産」と一括りにされがちな資産でも、所有形態によって税務処理がまったく異なるという点です。タイムシェアをそのまま「不動産投資の節税スキームに組み込もう」と考えていた顧客には、必ず税理士への確認を促しました。
2020年改正後の現在、海外不動産の損益通算という前提自体が変わっています。タイムシェアに限らず、海外に資産を持つすべての個人事業主は、改めて税務の整理をしておく必要があります。海外送金・税務は国によって異なりますので、必ず専門家へのご相談をお勧めします。
個人事業主が失った節税メリットと直面する5つの現実
課税所得の圧縮手段が一つ消えた実態
改正前、個人事業主が海外中古不動産の減価償却を使った損益通算によって、実質的に数百万円単位で課税所得を圧縮するケースは珍しくありませんでした。所得税率が33〜45%に達する高所得の個人事業主にとって、その効果は非常に大きかったのです。
それが封じられた今、個人事業主が直面している現実は以下の5点に集約されます。
- 現実①:所得税・住民税の実質負担増——損益通算ができなくなった分、課税所得が増え、所得税・住民税が直接的に増加します。
- 現実②:キャッシュフロー計画の見直しが必要——節税効果を前提に組んでいた資金計画が崩れるため、手元キャッシュの再計算が急務です。
- 現実③:既存物件の保有継続判断が複雑化——節税目的で購入した物件を持ち続けるメリットが薄れ、売却タイミングの再検討が迫られます。
- 現実④:売却時の譲渡所得課税リスク——売却時には累積した減価償却分が「取得費」を下げる形で課税されます。出口戦略の再設計が不可欠です。
- 現実⑤:代替節税スキームへの対応コスト——iDeCoや小規模企業共済、法人化など代替手段の検討・実行にはコストと時間がかかります。
私自身、AFPとして複数の資産形成手段を並行運用していますが、それでもこの改正が与えた影響は小さくありませんでした。「節税前提で成立していた投資モデル」は、根本から見直す必要があります。売掛金 早期回収 方法7選|AFP宅建士が500人相談で導いた実例
「損失の繰越控除」まで封じられた深刻さ
多くの個人事業主が見落としがちな点として、損益通算の遮断だけでなく、翌年以降への繰越控除も認められなくなった点があります。通常の不動産所得の損失であれば、青色申告を前提に3年間の繰越控除が可能です。しかし国外中古建物に起因する損失は、その繰越も制限されています。
これは実務上、非常に深刻な制限です。仮に大規模修繕等で一時的に損失が膨らんでも、それを翌年以降に活かせません。個人事業主として海外不動産を保有し続ける場合、損失の「使い道がない」という状態が続くリスクを正確に把握しておく必要があります。
廃止後に個人事業主が取るべき5つの対策と法人化の検証
法人化による出口戦略の再設計
最も根本的な対策として検討すべきは、資産保有の主体を個人から法人へ移すことです。法人であれば、不動産所得の損失を法人の事業所得と通算できる余地があり、また減価償却の取り扱いも個人とは異なります。法人税率の観点からも、所得が一定水準を超える個人事業主にとっては法人化が有利になるケースがあります。
ただし、海外不動産を法人名義で保有するには現地法律への適合が必要です。フィリピンでは外国人・外国法人の土地取得に制限があり、コンドミニアム法(Condominium Act)の範囲内での取得が原則です。ハワイ・米国では法人での不動産取得は比較的柔軟ですが、FIRPTA(外国人投資不動産税法)等の税務規制が適用されます。海外不動産は日本の宅建業法の直接適用外である点を踏まえ、現地の法務・税務専門家との連携が不可欠です。
私自身、現在都内で法人を経営しており、インバウンド民泊事業も法人として運営しています。その経験から言えるのは、法人化は「節税の道具」ではなく「事業の器」として設計するべきだという点です。法人化を検討する際は、個人差があります。税理士・法律の専門家への相談を強くお勧めします。海外移住オーストラリア不動産賃貸比較|宅建士が検証した5判断軸
iDeCo・小規模企業共済・NISA活用による代替節税設計
法人化以外の代替手段として、個人事業主に認められている節税制度を最大限に活用することが現実的な対策となります。具体的には以下の選択肢が考えられます。
- iDeCo(個人型確定拠出年金):個人事業主は最大年81.6万円(月6.8万円)の掛金が全額所得控除。
- 小規模企業共済:掛金月7万円まで全額所得控除。廃業・退職時の退職所得控除活用も可能。
- 青色申告特別控除の最大化:65万円控除を確実に確保するための帳簿整備と電子申告の徹底。
- NISAの成長投資枠活用:米国REITやETFへの投資で、運用益を非課税枠内に収める設計。
- 国内中古不動産への組み換え:国内物件であれば従来の損益通算ルールが適用されるため、資産構成の見直しで節税機能を回復できる可能性があります。
私は現在、株式・ETF・米国REIT・暗号資産・銀地金を組み合わせて運用しています。海外不動産の税務メリットが縮小した分、iDeCoと小規模企業共済の掛金を最大化して所得控除を積み上げる方向に資産設計をシフトしました。これはあくまで私個人の判断であり、最適な手法は個人の状況によって異なります。
まとめ|海外不動産の減価償却廃止に個人事業主が取るべき行動
改正の影響を正確に理解するための5つのチェックポイント
- 国外中古建物に起因する損失は、他の所得との損益通算が制限されていることを確認する
- 既存保有物件の売却時に譲渡所得が発生するリスクを、取得費・減価償却累積額を踏まえて再計算する
- 現地法律・為替リスク・日本の税務の三点セットで海外不動産を評価し直す
- 法人化の検討は税理士・弁護士と連携して進め、単純な節税目的で実行しない
- iDeCo・小規模企業共済・NISAなどの代替節税手段を組み合わせて、所得控除の最大化を図る
不動産の出口戦略に悩んだら専門機関への相談が最短ルート
2020年税制改正によって、海外不動産の減価償却廃止の影響は個人事業主にとって「節税スキームの崩壊」を意味します。私はAFP・宅建士として、また実際に海外不動産を保有する当事者として、この問題を軽視すべきではないと考えています。
特に、保有物件をどのタイミングでどう処分するかという「出口戦略」の設計は、税務・法務の両面から精緻に検討しなければなりません。不動産トラブルや売却・査定に関して中立的な立場からアドバイスを求めたい場合、一般社団法人が提供する公平な査定サービスの活用は有力な選択肢の一つです。
海外送金・税務は国によって異なりますし、個人の状況によって最適解も変わります。本記事の内容はあくまで情報提供を目的としており、個別の投資・税務判断については必ず税理士・弁護士等の専門家へご相談ください。
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の投資・税務・法務行為を推奨するものではありません。記載内容は執筆時点の情報に基づきますが、最新情報や個別具体的な判断については、各分野の専門家(税理士・弁護士・宅建士・FP等)または公的機関にご相談ください。
【執筆・監修】
Christopher(AFP / 宅建士 / TLC)- 金融・不動産・法人実務の実体験ベースで執筆
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