海外不動産の名義を個人と法人のどちらにするかは、購入前に決めておかなければ後戻りが難しい判断です。私はAFP・宅建士として、フィリピンのプレセールコンドミニアムを個人名義で保有しながら、東京の法人でインバウンド民泊事業も運営しています。この両面の実務経験をもとに、海外不動産 名義 個人 vs 法人 比較の7論点を整理します。
個人名義と法人名義の前提整理|そもそも何が違うのか
日本の宅建業法は海外物件には適用されない
まず大前提として押さえておきたいのは、日本の宅地建物取引業法は国内不動産を対象とした法律であり、フィリピンやハワイなど海外の物件には直接適用されないという点です。私が宅建士として実務に関わる場面でも、海外不動産の購入相談では「日本の宅建業法的には問題ない」ではなく「現地の法制度で判断する必要がある」と必ず案内しています。
フィリピンであればコンドミニアム法(Republic Act 4726)に基づく外国人の区分所有規制があり、外国人が保有できる比率は棟全体の40%以内に制限されています。法人名義にする場合も、フィリピン法人かそれとも日本法人の支店・子会社かによって規制の受け方が変わります。名義の選択は単なる税務の話ではなく、現地の法的スキームと一体で考える必要があります。
個人名義・法人名義それぞれの基本スキーム
個人名義とは、購入者本人(日本国籍の自然人)が所有者として現地登記に記載される形です。手続きがシンプルで、取得コストも比較的抑えられます。一方、法人名義とは日本の株式会社・合同会社、または現地法人が所有者となる形です。
日本法人名義で海外不動産を取得した場合、その物件から生じた賃料収入や売却益は法人の課税所得に算入されます。税率は法人実効税率(中小法人で概ね23〜25%前後)が適用されます。個人名義の場合は、賃料収入は不動産所得として総合課税、売却益は譲渡所得として分離課税(5年超保有なら長期譲渡で20.315%)の扱いになります。この課税構造の差が、名義選択の根幹に関わってきます。
私の実体験|フィリピン個人名義保有と法人運営の両方から見えたもの
フィリピンのプレセール購入で個人名義を選んだ理由と後悔
私がマニラ新興エリアのプレセールコンドミニアムを購入したのは数年前のことです。当時の購入価格は日本円換算で約1,000万円台前半で、デベロッパーへの頭金を分割払いで入金しながら完成を待つ形でした。その時点では個人名義を選択しました。理由は単純で、法人設立コストと手続きの煩雑さを避けたかったからです。
ただし、今振り返ると一点だけ判断が甘かったと感じています。個人名義の場合、フィリピンでの賃料収入を日本に送金する際の源泉徴収税と、日本での確定申告における外国税額控除の計算が想定より複雑でした。フィリピンでは非居住者への賃料支払いに対して25%の源泉税が課されるケースがあり、日本との租税条約(日比租税条約)の適用を確認するために税理士への相談が必要になりました。海外送金・税務は国によって異なりますし、専門家への相談は必須だと実感しています。
法人運営(民泊事業)で学んだ経費算入の威力と落とし穴
現在、東京都内の法人でインバウンド民泊事業を運営しています。この経験から言えるのは、法人は経費の範囲が広いという点が確かに強みだということです。物件の減価償却費、管理会社への委託費、現地視察を兼ねた出張費などを法人の損金として計上できるため、実効的な税負担を抑えやすい構造になっています。
ただし、法人名義には落とし穴もあります。法人の維持コストとして、最低限の住民税均等割(年間約7万円〜)、税理士顧問料(年間30〜60万円程度が相場)が固定費として発生します。保険代理店勤務時代に富裕層の資産相談を担当していた経験から言っても、「法人化するだけで節税できる」という単純な話ではなく、物件数・賃料収入の規模によって損益分岐点が変わります。年間家賃収入が200万円未満の規模であれば、法人維持コストが上回るケースも十分あり得ます。
税務面の比較7論点|個人と法人で何がどう変わるか
所得課税・損益通算・減価償却の3つの差
論点①「所得税率」:個人の不動産所得は給与所得等と合算され、最高税率55%(所得税45%+住民税10%)が適用される可能性があります。一方、法人の実効税率は中小法人で23〜25%前後が目安です。高所得者ほど法人名義が有利になる計算です。
論点②「損益通算」:個人の場合、海外不動産の赤字は原則として国内不動産所得との損益通算は可能ですが、給与所得や他の所得との通算には制限があります。2013年度税制改正以降、海外中古不動産の節税スキームへの規制が強化されており、耐用年数の短い海外物件で減価償却費を大きく計上する手法は適用要件が厳しくなっています。
論点③「減価償却」:法人名義では建物の減価償却を損金算入でき、課税所得を圧縮できます。フィリピンのRC造コンドミニアムは日本の法定耐用年数(47年)が基準となります。個人名義でも減価償却は計上できますが、前述の損益通算制限と合わせて効果を精査する必要があります。売掛金 早期回収 方法7選|AFP宅建士が500人相談で導いた実例
消費税・源泉徴収・外国税額控除の3論点
論点④「消費税」:法人が海外不動産を取得・賃貸する場合、国外取引は原則として消費税の課税対象外です。ただし、インボイス制度導入後の日本国内の管理費用等との処理は整理が必要です。
論点⑤「源泉徴収」:フィリピン等では非居住者への賃料支払いに現地で源泉税が課されます。これを日本の税務申告で外国税額控除として活用できるかどうかが、個人・法人ともに実質的な手取りに影響します。租税条約の適用可否は国と所得種類によって異なるため、税理士への確認が欠かせません。
論点⑥「退職金・役員報酬スキーム」:法人名義であれば、物件売却時の利益を役員退職金として受け取ることで、個人の税負担を平準化できる場合があります。これは保険代理店時代に富裕層の資産設計で頻繁に活用されていた手法です。ただし、不当に高額な退職金は税務否認リスクがありますので、税理士との綿密な設計が前提です。
論点⑦「相続税との関係」:これは次のセクションで詳しく解説します。
相続・融資・移住計画との整合性|名義選択を左右する3つの現実
海外不動産の相続は個人名義が有利か法人名義が有利か
海外不動産の相続は、個人名義と法人名義で手続きの複雑さがまったく異なります。個人名義の場合、被相続人の死亡後に現地の相続手続き(フィリピンならExtrajudicial Settlementなど)と日本の相続手続きを並行して進める必要があります。現地の手続きには現地弁護士が必要になるケースが多く、費用と時間がかかります。
法人名義であれば、物件自体は法人が保有し続けるため、相続時に動くのは法人の「株式や出資持分」です。株式・持分の評価は相続税法上の純資産価額方式や類似業種比準価額方式で行われますが、うまく設計すれば評価額を抑えられる可能性があります。ただし、海外不動産を保有する非上場法人の株式評価は複雑で、個別に税理士・税務専門家に相談することを強く推奨します。個人差があります。海外移住オーストラリア不動産賃貸比較|宅建士が検証した5判断軸
融資・与信と移住計画の現実的な壁
融資の面では、海外不動産は日本の金融機関から担保評価を受けにくいという現実があります。個人名義・法人名義を問わず、フィリピンの物件を担保に日本の銀行から融資を引き出すことはほぼ困難です。現地デベロッパーのローンや現地金融機関の活用が主な選択肢となりますが、外国人への融資条件は厳しく、金利も高めに設定されることが多いです。
移住計画との整合性という点では、私自身がアジア圏への移住を将来的に検討しているため、この論点は特に重視しています。個人名義で海外物件を保有しながら日本に住んでいる間は、賃料収入は日本の確定申告に含める必要があります。しかし、将来的に日本の非居住者になった場合、課税関係が大きく変わります。法人名義にしておけば、個人の居住地が変わっても法人は日本に残り、法人税の課税関係は継続するという整理もできます。どちらが有利かはケースバイケースで、移住先国の租税条約と合わせた検討が必要です。専門家への相談を推奨します。
まとめ|私の選択と、あなたが判断するための軸
7論点の結論整理|個人・法人どちらに向いているか
- 所得税率が高い(課税所得900万円超)なら法人名義の節税効果が出やすい
- 物件規模が小さい(賃料収入200万円未満)なら法人維持コストが重荷になりやすい
- 相続・承継を重視するなら法人名義で株式評価の設計を早めに行う価値がある
- 海外移住を計画中なら個人名義の居住地変更による課税関係の変動を先に確認する
- フィリピン等で外国人所有規制がある国の場合は、まず現地法制度から名義スキームを決める
- 出口(売却)を重視するなら、法人名義は売却益が法人課税所得になる点を加味した試算が必要
- 為替リスク・送金コストは個人・法人ともに避けられないリスクであり、必ず運用計画に織り込む
私の現状の選択と、専門家相談のすすめ
現時点での私の選択は、フィリピン物件は個人名義で保有を継続しながら、将来的な追加取得や規模拡大の局面では法人名義への移行を検討するというスタンスです。AFP・宅建士として両面を試算してきた結論として言えるのは、「どちらが有利か」は物件の規模・保有期間・個人の所得水準・相続の必要性・移住計画のすべてを統合しないと答えが出ないということです。
一点だけ断言できるのは、購入後に名義を変更するのは極めてコストが高いという事実です。フィリピンで個人名義から法人名義に変更する場合、売買取引として扱われ、移転税・印紙税・不動産取得税相当の費用が再度発生します。名義の検討は必ず購入前に行ってください。また、現地の不動産に関するトラブルや権利関係の確認には、公平な立場で査定・相談を受けられる窓口を活用することも有効な選択肢の一つです。
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の投資・税務・法務行為を推奨するものではありません。記載内容は執筆時点の情報に基づきますが、最新情報や個別具体的な判断については、各分野の専門家(税理士・弁護士・宅建士・FP等)または公的機関にご相談ください。
【執筆・監修】
Christopher(AFP / 宅建士 / TLC)- 金融・不動産・法人実務の実体験ベースで執筆
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