AFP・宅地建物取引士として、保険代理店時代から富裕層の資産相談に関わってきた私は、ゴールデンビザ比較の相談を年間十数件ほど受けてきました。「どの国が得か」という問いへの答えは、投資額・居住要件・税制の3軸を整理しなければ導き出せません。この記事では、ポルトガル・ギリシャ・スペイン・UAE・マルタの5カ国を実務の視点から徹底的に比較します。
ゴールデンビザ比較の前提条件を整理する
「ゴールデンビザ」の定義と日本人が注目する理由
ゴールデンビザとは、一定額以上の投資を条件に外国人へ居住権(永住権・長期滞在ビザ)を付与する制度の総称です。国によって正式名称は異なりますが、「投資移民ビザ」「投資家居住ビザ」と呼ばれることもあります。
日本人がこの制度に注目し始めたのは、2010年代後半から加速した円安・増税・社会保険料負担増という「日本のコスト高」が背景にあります。私が総合保険代理店に勤務していた時期、個人事業主や中小企業オーナーの相談の中に「節税を兼ねた海外移住」のテーマが明らかに増えていきました。
ただし、ゴールデンビザはあくまで居住権の取得手段であり、節税効果は各国の税法と日本の出国税・CRS対応によって大きく変わります。この前提を押さえた上で比較に入ります。
比較の3軸:投資額・居住要件・税制
5カ国を比較する際、私が相談現場で使ってきたフレームワークは「投資額(初期コスト)」「居住要件(年間滞在日数)」「税制優遇(所得税・相続税)」の3軸です。
投資額は単純な数字の大小だけでなく、「不動産か金融商品か」「売却可能か」「管理コストは別途かかるか」まで含めて評価する必要があります。居住要件は、日本と二拠点生活を続けたい方にとって死活問題です。税制については、「課税ルールが日本と異なる」という事実を正確に理解した上で、必ず現地税務専門家と日本の税理士の両方に相談することを強く推奨します。
以下では、この3軸に沿って5カ国を順番に解説していきます。
5カ国の投資額と最低拠出ラインを比較する
ポルトガル・ギリシャ・スペイン:欧州3カ国の現状
ポルトガルゴールデンビザは、2024年の制度改正によって不動産購入ルートが事実上廃止され、現在はファンド投資(最低拠出額50万ユーロ/約8,000万円)や起業・寄付ルートが中心となっています。以前は28万ユーロ〜50万ユーロ程度の不動産購入で取得できたため、「欧州ゴールデンビザの登竜門」と呼ばれていましたが、制度の性格が大きく変わりました。
ギリシャは2023年以降、アテネ中心部や人気観光地では不動産購入の最低額が80万ユーロ(約1億3,000万円)に引き上げられています。一方、対象外エリアの不動産は25万ユーロ(約4,000万円)からのルートが残っており、欧州の中では比較的取り組みやすい水準です。ただし、エリア選定を誤ると流動性が低い物件を抱えるリスクがあります。
スペインは2024年に不動産ルートのゴールデンビザを廃止しました。現在は金融資産投資(100万ユーロ以上)や国債購入(200万ユーロ以上)などが残るのみで、個人投資家が手軽に取得できる制度ではなくなっています。
UAE・マルタ:中東と地中海の新興ルート
UAEの居住ビザは「ゴールデンビザ」という名称が公式に使われており、200万AED(約8,000万円)以上の不動産購入で10年間の居住権が得られます。所得税・相続税がゼロという税制と組み合わせた場合の資産保全効果は注目に値しますが、「税金が免除される」わけではなく、「UAEに課税ルールが日本と異なる形で存在している」という理解が正確です。日本に住民税の納税義務が残る可能性もあるため、海外送金・税務については専門家への相談が不可欠です。
マルタは「マルタ永住プログラム(MPRP)」として、不動産購入または賃貸と管理費・寄付を組み合わせた形での永住権取得が可能です。費用の目安は総額で数千万円規模になりますが、EU永住権としての位置づけがあるため、欧州域内の移動の自由という付加価値があります。ただし、スペインやポルトガルが制度を縮小した背景にはEUの圧力があり、マルタの制度も今後変更される可能性を念頭に置く必要があります。
富裕層相談の現場で見た投資判断のリアル
保険代理店時代に受けた「移住前提の資産組み換え」相談
私が総合保険代理店に勤務していた時期、個人事業主や医師・経営者など富裕層の資産相談を多数担当しました。その中で印象に残っているのは、「日本を出る前提で資産を組み換えたい」という相談が2020年前後から急増したことです。
当時の相談者の多くは、「ポルトガルゴールデンビザを不動産で取りたいが、現地の物件をどう評価すればいいかわからない」という状態でした。私はAFP・宅建士の立場から資産全体のバランスと日本側の税務リスクを整理する役割を担いましたが、「海外不動産は日本の宅建業法の適用外」という点を毎回説明した上で、現地の法律専門家への橋渡しを行っていました。この経験から、ゴールデンビザ取得のプロセスには「日本の税務」「現地の不動産法」「ビザ申請手続き」という3つの異なる専門領域が絡み合っていると実感しています。
フィリピン・プレセール購入で学んだ「制度変更リスク」
私自身、フィリピン・マニラ新興エリアのプレセールコンドミニアムを購入した経験があります。購入を決めた時、現地の外国人向け購入規制(コンドミニアムは外国人が最大40%まで所有可能)をAFPとして自分で調べ、現地の弁護士に法的確認を取るプロセスを踏みました。
この経験で痛感したのは「制度は変わる」というリスクです。フィリピンでは外国人土地所有規制の議論が定期的に浮上しており、プレセールの引き渡しまでの数年間に規制が変わる可能性はゼロではありません。ゴールデンビザも同様で、ポルトガルやスペインの制度縮小は「今日は使えるルートが明日は消えている」ことを現実として示しています。制度の恒久性を過信せず、「取得後のシナリオ」まで含めて計画することが不可欠です。個人差がありますので、自分のリスク許容度と照らし合わせて判断してください。
居住要件と滞在日数の実務的な影響
年間滞在日数の違いが二拠点生活に与える影響
ゴールデンビザ比較において、居住要件は投資額と同じくらい重要な判断軸です。日本でビジネスを持ちながら海外居住権を維持したい方にとって、「年間何日その国に滞在しなければならないか」は死活問題になります。
ポルトガルの場合、現行制度では年間平均7日(2年ごとに14日)の滞在が条件とされており、欧州の中では比較的緩い水準です。ギリシャは年間滞在義務が実質的に課されていないとされており、二拠点生活との相性がよいとされています。一方、マルタの永住権は年間滞在義務こそ低いものの、「実質的居住」とみなされると課税関係が変わる可能性があります。キプロス永住権と不動産投資|宅建士が35歳移住計画で検証した5観点
UAEは年間滞在義務がなく、むしろ「UAE居住ビザを維持するために年に1回以上入国すれば十分」という運用が可能なケースもあります。ただし、UAE税居住者として認定されるためには別途要件があり、日本での住民税納税義務の整理と合わせて専門家への相談が必要です。
日本の税務居住者判定との交差点
海外移住を検討する際、「日本の税務居住者でなくなる」ためには単に住所を移すだけでは不十分です。日本の所得税法では、生活の本拠がどこにあるかという「実態」で居住者・非居住者を判定します。ゴールデンビザで海外の居住権を取得しても、日本での家族・事業・資産の状況によっては日本の課税関係が継続する可能性があります。
私自身、東京都内で法人を経営し、インバウンド民泊事業を運営しながら将来的なアジア圏への移住を検討している立場として、この問題は他人事ではありません。現在、日本側の税理士と移住先国の税務専門家の両方に相談しながら、二拠点運営の枠組みを整理している最中です。海外送金・税務については「国によって異なります」という前提を常に持ち、専門家への確認を怠らないことが重要です。
税制優遇とCRS対応の現実を知っておく
CRS(共通報告基準)でゴールデンビザは「隠れ蓑」にならない
2017年以降、OECD主導のCRS(共通報告基準)が多くの国で施行され、金融口座情報が各国税務当局間で自動交換されるようになりました。UAE・マルタ・ポルトガル・ギリシャはいずれもCRS参加国であり、現地口座情報は日本の国税庁に報告されます。
「ゴールデンビザを取れば海外資産が見えなくなる」という認識は完全に誤りです。私が相談を受けた中にも、この点を誤解している方が少なからずいました。ゴールデンビザは「資産隠し」の手段ではなく、あくまで「居住地の選択肢を広げる」ための制度です。合法的な節税と脱税の境界線を理解した上で活用する必要があります。ドバイ2026年最新動向|宅建士が移住計画で精査した7論点
各国の税制優遇を正確に理解する
UAEは法人税・個人所得税・キャピタルゲイン税・相続税がゼロという税制構造を持っています。ただし、これは「UAEが課税しない」という意味であり、日本の税務居住者である間は日本での申告義務が残ります。真に節税効果を享受するには、日本の税務居住者から外れるプロセスを正確に踏む必要があります。
ポルトガルには以前「NHR(非習慣的居住者)制度」があり、10年間の税優遇が得られましたが、2024年に廃止され「IFICI」という新制度に移行しています。特定の職種・技術者向けの優遇が中心となり、一般的な富裕層移住としての税メリットは縮小しています。制度は継続的に変更されるため、最新情報を現地専門家から取得することが不可欠です。
まとめ:ゴールデンビザ比較の判断軸と次の一手
5カ国比較の要点整理
- ポルトガル:制度改正で不動産ルート廃止。現在はファンド投資が中心で最低拠出50万ユーロ超。NHR廃止で税メリットも縮小。欧州永住・EU市民権取得を目指す長期プランに向く。
- ギリシャ:エリアによって25万〜80万ユーロの不動産購入ルートが残存。滞在義務が緩く二拠点生活との相性が良い。物件の流動性と管理コストに注意が必要。
- スペイン:2024年に不動産ルート廃止。金融資産100万ユーロ以上など富裕層向けルートのみ残存。ハードルが高く、日本人投資家の選択肢としては以前より検討しづらい状況。
- UAE:200万AED以上の不動産で10年ゴールデンビザ。所得税・相続税ゼロの税制が魅力。滞在義務が低く、法人設立との組み合わせが有効。CRS参加国のため情報隠蔽は不可。
- マルタ:EU永住権としての価値が高い。総額数千万円規模のコストが必要。EU圧力による制度変更リスクを認識した上での判断が求められる。
次の一手:UAE法人設立との組み合わせが有力な選択肢
私が現在プランニング中のアジア圏移住を念頭に置くと、UAE居住ビザと現地法人設立の組み合わせは有力な選択肢の一つです。法人設立によってゴールデンビザの要件を満たす別ルートが開く場合もあり、不動産購入なしで居住権を取得できる可能性があります。
ただし、これはあくまで個人の状況次第であり、日本での事業・資産・家族構成によって最適解は大きく変わります。「UAE居住ビザ×現地法人」の組み合わせを検討する際は、現地の法務・税務の専門家に相談した上で判断することを強く推奨します。個人差がありますので、必ずご自身の状況に合わせた専門家のアドバイスを受けてください。
ドバイへの移住や海外法人設立の初動として、サポート実績のある専門家への相談が確実性を高める近道です。
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の投資・税務・法務行為を推奨するものではありません。記載内容は執筆時点の情報に基づきますが、最新情報や個別具体的な判断については、各分野の専門家(税理士・弁護士・宅建士・FP等)または公的機関にご相談ください。
【執筆・監修】
Christopher(AFP / 宅建士 / TLC)- 金融・不動産・法人実務の実体験ベースで執筆
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