海外不動産の相続は「海外法人を使えば節税できる」という情報が独り歩きしています。私はAFP・宅建士として、フィリピン・オルティガスに約3,500万円相当のプレセールコンドミニアムを保有し、実際に相続スキームの設計を検討してきました。その過程で7つの大きな壁にぶつかりました。この記事では、海外不動産×相続×海外法人の実務をリスクも含めて正直に解説します。
海外不動産相続×海外法人の基本3分解説
なぜ「海外法人保有」が相続対策として語られるのか
海外不動産を個人名義で保有している場合、オーナーが死亡すると現地の相続法が適用されます。フィリピンであれば現地の遺産分割手続き、ハワイであれば「プロベート(検認手続き)」が開始され、これが非常に時間と費用のかかるプロセスです。
プロベートとは、裁判所が遺産の正当性を確認する法的手続きで、ハワイのケースでは完了まで1〜2年、弁護士費用だけで遺産総額の3〜5%前後かかることも珍しくありません。実際に私がハワイのタイムシェア管理会社に問い合わせた際、「個人名義のままでは相続時に現地弁護士が必須」と明言されました。
そこで「法人名義で保有しておけば、法人の株式を相続するだけで済む」という発想が生まれます。法人は死亡しないので、理論上は現地での相続手続きが不要になる——これがスキームの根拠です。ただし、この「理論上」という部分に大きな落とし穴があります。
日本の相続税法は「世界中の資産」に課税する
まず確認しておきたい大前提があります。日本の相続税法は、被相続人または相続人が日本の居住者であれば、所在地を問わず全世界の資産に課税します。フィリピンの不動産だろうと、海外法人の株式だろうと、日本居住者が相続する場合は原則として相続税の対象です。
海外法人を使ったスキームで「相続税ゼロ」と謳う情報には要注意です。確かに現地のプロベートは回避できる可能性がありますが、日本の相続税が消えるわけではありません。さらに、法人の株式評価は「純資産価額方式」で計算されるケースが多く、不動産の時価がそのまま株式価値に反映されるため、評価額の圧縮効果は限定的なことがあります。海外送金や税務処理については国によって異なる場合があり、必ず税理士等の専門家に相談することを強くお勧めします。
私が3,500万円物件で直面した相続課題
フィリピン・オルティガスのプレセール購入時に気づいた落とし穴
私がフィリピンのコンドミニアムを購入したのは、オルティガスという首都圏の新興ビジネスエリアです。プレセール価格は約3,500万円相当(当時のフィリピンペソ換算)で、竣工後の賃料収益が見込まれる立地を選びました。購入時、私がまず直面したのは名義問題です。
フィリピンでは外国人が土地を所有することは法律で禁じられており、コンドミニアム(区分所有)は外国人が40%未満の持分であれば保有できます。ところが、この「外国人個人名義」のままにしておくと、死亡時にフィリピンの遺産税(Estate Tax)が課されます。現在フィリピンの遺産税は一律6%ですが、為替リスクも考慮すると、円建てでの税負担がどう変動するかは読みにくい部分があります。
現地の弁護士と複数回やり取りした結果、フィリピン法人(株式会社に相当するCorporation)を設立して法人名義にするという選択肢を検討しました。しかしここで第一の壁にぶつかりました。フィリピン法人は外国人持分が40%以下でなければならないため、60%以上は信頼できるフィリピン人株主を立てる必要があります。この「ノミニー株主問題」は法的グレーゾーンであり、実務上の最大リスクの一つです。
ハワイのタイムシェアと相続:プロベート回避の現実
一方、ハワイで保有しているマリオット系のタイムシェアについては、別のアプローチを取っています。タイムシェアは「不動産の一形態」として扱われるため、個人名義のままであればプロベートの対象になり得ます。
私が管理会社に確認したところ、リビングトラスト(生前信託)を活用することで、ハワイにおけるプロベートを回避できる可能性が高いと教えてもらいました。リビングトラストとは、生前に財産を信託に移転しておくことで、死亡時に裁判所の検認手続きを経ずに受益者へ財産を移せる米国法上の仕組みです。海外法人を使うよりも、タイムシェアのような小規模な海外資産にはリビングトラストの方がシンプルなケースもあります。ただし米国の税務・法務は日本と制度が大きく異なるため、現地の弁護士・日米両国の税理士への相談は必須です。
保険代理店に勤めていた頃、富裕層のお客様から「海外資産を子どもに残したいが、日本の生命保険でカバーできるか」という相談を何度か受けました。当時の私は宅建士資格を持ちながらも、海外不動産の相続実務については知識が限定的でした。自分が実際に物件を購入し、専門家と直接交渉する立場になって初めて、「理論と実務の乖離」を身をもって理解できたと感じています。
宅建士が検証した海外法人スキーム5つの型
スキームの種類と日本居住者が注意すべきポイント
海外不動産を法人で保有する主なスキームを整理すると、大きく5つの型があります。それぞれにメリットとリスクが存在し、「どれが最善か」は資産規模・家族構成・移住計画によって異なります。個人の状況によって結果は大きく異なりますので、専門家への相談を前提として参考情報として読んでいただければと思います。
- 型①:現地法人(フィリピン法人など)保有:プロベート回避の可能性あり。ただしノミニー株主問題、法人維持コスト(年間数万〜十数万円)、日本側でのCFC課税(タックスヘイブン対策税制)に要注意。
- 型②:香港法人・シンガポール法人保有:アジア系資産の管理に使われるケース。設立コストが比較的低いが、実態を伴わない法人はPE認定リスクあり。
- 型③:米国LLC保有(ハワイ資産向け):プロベート回避に有効とされるが、米国連邦税・州税の申告義務が発生する可能性が高い。
- 型④:リビングトラスト(信託)活用:米国資産に限り有効。法人格がないため株式評価の問題は生じないが、日本での課税関係は別途検討が必要。
- 型⑤:日本の資産管理法人を経由するスキーム:国内法人が海外資産を保有するため、日本法のコントロール下に置ける。ただし海外送金規制・外為法の報告義務が生じる。
私が現在検討しているのは型①と型⑤の組み合わせです。フィリピン物件については、信頼できるフィリピン人パートナーを株主に立てるリスクを避けるため、日本の資産管理法人を経由してフィリピン法人に出資する構造を弁護士と協議中です。売掛金 早期回収 方法の実体験|AFPが5手段を解説
CFC課税(タックスヘイブン対策税制)が最大の盲点
海外法人スキームを考える上で、日本居住者が最も見落としやすいのがCFC課税です。日本のタックスヘイブン対策税制(租税特別措置法66条の6等)では、日本居住者が外国法人の50%超を実質支配し、かつその法人の実効税率が一定基準(概ね27%以下)を下回る場合、その法人の所得は日本の税務申告に合算される可能性があります。
フィリピンの法人税率は2023年以降30%から段階的に引き下げられており、現在は最大25%程度です。香港・シンガポールはさらに低税率のため、CFC課税の対象になり得ます。「海外法人で節税」と考えて設立したのに、日本で合算課税されては意味がありません。この判断は税理士の専門領域であり、私はAFPとして概要を理解する立場ですが、具体的な税務判断は必ず国際税務に詳しい税理士に依頼することが不可欠です。
失敗談:均等割を忘れた法人運営の教訓
日本の資産管理法人を作った時に見落とした固定コスト
私は現在、東京都内でインバウンド民泊事業を運営するための法人を保有しています。この法人を設立した際、海外不動産の管理も兼ねる構想を持っていましたが、最初の決算で「均等割」の請求を見て思わず固まりました。
法人住民税の均等割は、赤字であっても発生する最低税額で、東京都の場合は年間約7万円(都民税・特別区民税合算)が基本です。さらに、法人を設立しているだけで法人税申告・消費税申告の義務が生じるため、税理士への顧問料が年間30〜60万円程度かかります。海外資産の管理法人として設立する場合、運用益が年間100万円以下の段階では、法人維持コストが収益を上回るリスクがあります。
保険代理店時代に富裕層の資産相談を担当していた経験から、「スキームの複雑さはコストに比例する」という実感があります。法人設立を検討する場合は、少なくとも保有資産の評価額が5,000万円を超え、かつ相続税の基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人数)を大きく超えるような規模感になってから、専門家と費用対効果を検討するのが現実的だと私は考えています。
フィリピン法人の年次報告義務という見えないコスト
フィリピン法人を設立・維持するには、SEC(証券取引委員会)への年次報告(GIS:General Information Sheet、AFS:年次財務諸表)の提出が義務付けられています。この対応を現地会計士に依頼すると、年間5〜15万円程度のコストが発生します。加えて、フィリピン国内での不動産取得税(約1.5〜2%)、固定資産税(RPT)、年間の賃貸収益に対するフィリピン所得税(居住者でない外国法人は25%)なども発生します。
私がプレセール物件の竣工後賃貸を想定してキャッシュフローを試算した際、これらの税・コストを全て算入すると、ネット利回りは想定より2〜3%ポイント低下することがわかりました。「表面利回りだけで投資判断するな」というのは国内不動産でも常識ですが、海外の場合は現地法律・税務・為替リスクが加わるため、実効利回りの計算は必ず現地の専門家を交えて行うべきです。為替の変動次第では円建ての収益が大幅に変わる可能性もある点は、常に念頭に置いておく必要があります。売掛金 早期回収 方法7選|AFPが500人相談で実証
まとめ:今すぐ始める相続準備3ステップ
海外不動産×海外法人スキームで確認すべき7つの壁チェックリスト
ここまで私が実際に直面してきた課題を整理してきました。海外不動産の相続を海外法人スキームで対策するには、以下の7点を事前に確認することが出発点になります。
- 壁①:現地の相続・遺産税ルールの把握(フィリピンは一律6%、ハワイはプロベートコスト3〜5%など)
- 壁②:日本の相続税との二重課税リスクの確認(外国税額控除の適用可否を税理士と確認)
- 壁③:CFC課税(タックスヘイブン対策税制)の対象になるかの検証
- 壁④:ノミニー株主問題など現地法人設立の法的リスク評価
- 壁⑤:法人維持コスト(均等割・顧問料・現地報告義務)の収益との対比試算
- 壁⑥:為替リスクを考慮した実効利回りと相続時評価額の乖離確認
- 壁⑦:日本側の遺言書・エンディングノートへの海外資産明記と受益者への情報伝達
宅建士として強調しておきたいのは、日本の宅建業法は国内不動産を対象とした法律であり、海外不動産の取引・相続には直接適用されません。だからこそ、現地法律・現地税務・日本の国際税務の三者を同時にカバーできる専門家チームを組むことが不可欠です。個人差がありますので、ご自身の資産状況に合わせた判断をしていただくことが大切です。
相続準備の第一歩:専門家に相談する前にすべき自己棚卸し
「専門家に相談する」のが正解だとわかっていても、何を相談すればいいかわからない——これが多くの方が抱える現実の壁です。私が保険代理店時代から富裕層の相談を受けてきた経験では、準備なしに専門家へ相談すると、アドバイスが「自社サービスの提案」に偏るケースも少なくありませんでした。
まず自分でやるべきことは3つです。第一に、海外資産の一覧(名義・所在国・評価額・法人か個人かの別)を紙に書き出すこと。第二に、日本の相続税基礎控除を超えているかどうかを概算で確認すること。第三に、相続人(家族)が海外資産の存在を把握しているかどうかを確認することです。
この3点を整理してから税理士・弁護士に相談すると、議論が格段にスムーズになります。私自身、将来のアジア圏への海外移住を計画しているため、日本の居住者ステータスが変わるタイミングで相続税の課税関係も変わることを念頭に、定期的にシミュレーションを更新しています。
なお、資産形成の過程では手元資金のタイミング管理も重要です。フリーランスや個人事業主として海外資産を運用している方の中には、報酬の入金タイミングと税金・維持費の支払いタイミングが合わずに資金繰りに悩むケースもあります。そういった局面で活用を検討できる選択肢の一つとして、以下のサービスを紹介します。
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の投資・税務・法務行為を推奨するものではありません。記載内容は執筆時点の情報に基づきますが、最新情報や個別具体的な判断については、各分野の専門家(税理士・弁護士・宅建士・FP等)または公的機関にご相談ください。
【執筆・監修】
Christopher(AFP / 宅建士 / TLC)- 金融・不動産・法人実務の実体験ベースで執筆
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