2020年税制改正により、国外中古建物の減価償却を使った海外不動産節税は実質的に封じられました。私はAFP・宅建士として、フィリピン・オルティガスのプレセールコンドミニアムとハワイのタイムシェアを実際に保有しています。この記事では、海外不動産の減価償却廃止が投資判断に与える5つの影響を、保有2物件の数字を交えながら実務視点で整理します。
減価償却廃止の改正内容と背景:2020年税制改正で何が変わったか
国外中古建物の損益通算制限とは何か
2020年度税制改正(令和2年度)において、「国外中古建物の不動産所得に係る損益通算等の特例」が新設されました。具体的には、国外中古建物から生じた不動産所得の損失のうち、減価償却費に相当する部分については、給与所得や事業所得との損益通算ができなくなったのです。
改正前は、たとえば海外の中古木造建物を取得した場合、築年数が法定耐用年数を超えていれば耐用年数を4年として計算できました。取得価格が2,000万円の物件であれば年間500万円の減価償却費を計上でき、それを国内の給与所得と相殺することで、所得税・住民税の節税額が数十万円から100万円超になるケースも珍しくありませんでした。
この仕組みは合法的なスキームでしたが、海外不動産節税を主目的とした投資が急増したことから、税務当局が課税の公平性を担保するために規制に踏み切りました。改正の適用は2021年分(令和3年分)の確定申告から始まっています。
改正の具体的な影響範囲と対象外となるケース
今回の改正が対象とするのは「国外中古建物」です。建物の構造・築年数を問わず、簡便法(耐用年数の短縮計算)を使って大きな減価償却費を計上するパターンが封じられた点が本質です。
一方で、新築や築年数が浅く通常の定額法・定率法で償却する物件は、制度上は損益通算の対象外ではありません。ただし実務上、海外新築物件で大きな減価償却費を出すことは構造上難しいため、事実上「旨味がなくなった」と理解するのが正確です。
また、不動産所得が黒字の場合(賃料収入が減価償却費を上回る場合)は、依然として減価償却費を経費計上することは可能です。問題となるのはあくまでも「損失を他の所得と通算する」ケースに限定されます。税務上の細かな判断は必ず税理士への相談を推奨します。
私が保有2物件で受けた影響:フィリピン・ハワイでの試算と実感
フィリピン・オルティガスのプレセールコンドミニアムで考えたこと
私がフィリピン・マニラの新興ビジネスエリアであるオルティガスでプレセールコンドミニアムを購入を決断したのは、改正が議論され始めた時期と重なっていました。購入当時、現地デベロッパーの提示価格はおよそ600万〜800万円相当(ペソ建て)で、プレセールのため完成までに3〜5年のキャッシュフロー計画が必要でした。
当時すでに税制改正の方向性が示されていたため、私は最初から「減価償却節税に頼った投資モデルは成立しない」という前提でシミュレーションを組みました。具体的には、節税効果をゼロとした上でキャピタルゲイン(竣工後の売却益)と賃料収入のグロスイールドを7〜9%で見込み、為替リスク(ペソ円)と現地管理コスト(賃料の10〜15%)を差し引いたネット収益で判断しました。
フィリピンの不動産取引は日本の宅建業法の対象外であり、現地の法律・規制(外国人の土地所有禁止など)を理解した上で進める必要があります。私はAFPの資格を持ちながらも現地弁護士・税理士のダブルチェックを必ず行う体制を取っています。海外不動産投資は為替リスク・現地法律リスク・流動性リスクが国内と異なる点を常に念頭に置くべきです。
ハワイのタイムシェア運用で確認した「節税目的ではない保有の意義」
一方、ハワイの主要リゾートで保有しているマリオット系のタイムシェアは、そもそも減価償却節税の対象となる「建物」の単独所有ではないため、今回の改正の直接的な影響はほぼありませんでした。タイムシェアは使用権の売買に近い性質があり、税務上の扱いは通常の不動産とは異なります。
ただし、この物件を通じて私が学んだのは「節税以外の保有理由を明確に持つ重要性」です。ハワイでの運用を通じて管理会社と交渉した経験から、海外不動産のランニングコスト(管理費・固定費・修繕積立金)が日本以上に変動しやすいことを肌で感じています。毎年の管理費がドル建てで発生するため、円安が進むほど円換算コストが膨らむ構造です。
保険代理店に勤めていた頃、富裕層の資産相談を担当した経験があります。その中で「節税が主目的で海外不動産を購入し、改正後に出口戦略がなくなって困っている」というケースを複数見てきました。節税効果を中心に据えた海外不動産投資のリスクは、改正前から私が懸念していた点でもあります。
節税目的層が撤退した5つの理由:海外不動産投資失敗の構造を読む
損益通算封鎖で「手取りが増える」という前提が崩壊した
2020年以前の海外不動産節税スキームは、「減価償却費による損失→給与所得との損益通算→所得税・住民税の圧縮→手取りが実質増加」という構造で成立していました。所得税率が33〜45%の高所得層にとっては、500万円の赤字計上で165〜225万円の税負担軽減が期待できる計算でした。
改正後はこの損益通算が封じられたため、手取りが増えるどころか、物件の管理コスト・現地税・為替ロスを考慮すると純粋にキャッシュアウトが増えるリスクがあります。「節税が目的なら物件を持ち続ける理由がない」という判断から、売却・撤退に動いた投資家が一定数出たのは合理的な行動です。売掛金 早期回収 方法7選|AFP宅建士が500人相談で導いた実例
出口戦略の不在・流動性リスクが表面化した4つの問題
節税目的層が撤退した背景には、税制改正以外の構造的な問題も重なっています。以下の4点が特に大きな要因です。
- 現地市場の流動性が低く、希望価格・希望タイミングでの売却が難しい
- 円安進行により、外貨建て購入価格の円換算コストが当初想定より膨らんでいる
- 現地の固定資産税・譲渡税・送金規制など、出口時のコストが不透明だった
- 日本の税務申告で「売却益が一時所得または譲渡所得として課税される」という認識が不足していた
海外不動産の売却益は日本の確定申告で申告が必要です(外国税額控除の適用可否も含め、国によってルールが異なります)。必ず税理士・専門家への相談を行ってください。個人差があります。
廃止後も残る投資メリット3点:宅建士が見る今後の可能性
賃料収入・キャピタルゲインを純粋に狙える物件の選び方
減価償却節税が封じられた今、海外不動産を保有する意義は「純粋な収益力」に集約されます。私がフィリピン物件を選んだ理由の一つも、グロスイールド7〜9%という収益水準です。東京都内の新築区分マンションがグロス3〜4%台であることと比較すれば、リスクを理解した上で分散投資先として検討する価値はあると考えています。
ただし、グロスイールドとネットイールドの乖離が大きい点は要注意です。現地管理費・空室リスク・為替変動・送金コストを差し引いた実質利回りは、表面の半分程度になることも珍しくありません。物件選定時は必ずネット利回りで試算し、最低でも5〜6%のバッファーを確認することを私は意識しています。
円建て資産への集中リスクを分散する手段として有効な3つの視点
日本円の資産だけを持ち続けることのリスクは、近年の円安で多くの方が実感しているはずです。海外不動産は外貨建て資産の一形態として、円建てリスクの分散に機能する可能性があります。
私が実感している3つの視点を挙げると、①フィリピンペソ・米ドル建て資産を持つことで円安時の資産価値目減りをヘッジできること、②現地インフレによる不動産価格の名目上昇が期待されること(ただし確実ではありません)、③将来的にアジア圏への海外移住を視野に入れている私にとって、現地資産の保有は生活基盤づくりとしての意味も持つことです。
もちろん、為替リスクは「ヘッジになる」と同時に「損失要因にもなる」という両面があります。外貨建て資産のリスクについては、投資判断前に必ずFP・税理士への相談を推奨します。銀行融資 断られた時の突破口|宅建士が公庫申請で実証した7手順
宅建士が見る今後の投資戦略:まとめとCTA
海外不動産減価償却廃止後の投資判断で押さえるべき5つの変化
- 変化①:節税から収益力へ 損益通算封鎖により、投資判断の軸が「税メリット」から「実質利回り」に完全にシフトした。グロスイールドではなくネット利回りで比較することが必須になった。
- 変化②:出口戦略の重要性が増大 節税目的なら「保有し続けること」に意味があったが、廃止後は売却タイミングとキャピタルゲイン課税のシミュレーションが投資判断の前提になった。
- 変化③:為替・送金リスクの可視化 節税が成立していた時代は多少の為替ロスを許容できたが、収益一本立ちになると円安・ペソ安の影響が直接手取りに響く。
- 変化④:現地法律・税務コストの再評価 現地の譲渡税・固定資産税・送金規制が「隠れコスト」として表面化しやすくなり、投資前のデューデリジェンスの質が問われるようになった。
- 変化⑤:参入層の変化 高所得サラリーマンの節税目的投資家が減少し、長期保有・外貨分散・居住目的の投資家が残る構造になった。これはある意味、市場の健全化とも言える。
少額から試せる不動産投資で「海外×資産形成」の第一歩を踏み出す
海外不動産の直接購入は、為替リスク・現地法律・多額の初期資金・出口戦略など、乗り越えるべきハードルが多いのは事実です。私自身、フィリピン物件の購入にあたって現地弁護士への費用・送金コスト・税務相談費用だけで数十万円の初期コストが発生しました。
一方で、「不動産を通じた資産形成を試してみたい」「海外含めた分散投資の入口を探している」という方には、まず少額から始められる不動産投資クラウドファンディングで感触を掴むのも一つの選択肢です。1万円という少額から不動産案件へ間接的に投資できるため、直接購入のリスクを負わずに仕組みを学べます。もちろん元本保証はなく、投資判断は自己責任で行ってください。
2020年税制改正による海外不動産の減価償却廃止の影響は、節税目的の投資家には大きなダメージでした。しかし収益力・外貨分散・長期保有という観点では、海外不動産はまだ検討する価値のある選択肢の一つです。自分の目的とリスク許容度を整理した上で、専門家への相談を経て判断することを強くお勧めします。
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の投資・税務・法務行為を推奨するものではありません。記載内容は執筆時点の情報に基づきますが、最新情報や個別具体的な判断については、各分野の専門家(税理士・弁護士・宅建士・FP等)または公的機関にご相談ください。
【執筆・監修】
Christopher(AFP / 宅建士 / TLC)- 金融・不動産・法人実務の実体験ベースで執筆
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