AFP・宅地建物取引士として海外不動産に実際に関わってきた経験から言うと、2020年の税制改正は「海外不動産 減価償却 節税 規制」の文脈において、多くの投資家の前提を根本から覆すものでした。私自身もフィリピンとハワイに物件を保有しており、この改正が自身の資産計画にどう影響するかを真剣に試算し直した経緯があります。本記事では、規制の実態と現行ルール下での現実的な活用戦略を整理します。
2020年税制改正で何が変わったか:規制の全体像
国外中古不動産の損益通算が封じられた背景
2020年度税制改正(令和2年度)により、国外中古不動産から生じる不動産所得の損失について、給与所得など他の所得との損益通算が原則として認められなくなりました。具体的には、所得税法63条の2が新設され、2020年(令和2年)以後の所得税の申告から適用されています。
それまでのスキームは明快でした。築古の海外不動産(特に木造・築25年超)を購入し、日本の耐用年数の計算ルール上で残存耐用年数が短くなった物件を大きく減価償却して、その償却費を給与所得や事業所得と損益通算することで課税所得を圧縮するというものです。高所得のサラリーマンや医師・経営者層を中心に広く活用されていたのが実態です。
国税庁がこのスキームを問題視した理由は、日本の税法上の「簡便法による耐用年数」と、現地での実際の建物価値の乖離にありました。現地では十分な市場価値を持つ物件であっても、日本の税務上は短期間で全額償却できてしまう構造が、制度の趣旨を逸脱した課税逃れとして整理されたのです。
「損益通算不可」のみならず「繰越控除も制限」という二重の壁
改正後の規制は損益通算の禁止だけにとどまりません。国外中古不動産の不動産所得の損失は、その物件を譲渡した年に限り、譲渡所得から控除できるという特例的な扱いになりました。言い換えると、保有期間中に生じた損失のほとんどは「その年限り」で消滅し、翌年以降に繰り越して他の所得と相殺することは認められません。
さらに重要なのは「過剰償却の調整」です。売却時には取得費の計算において、規制前に損益通算で使った償却費が取得費から差し引かれる可能性があり、譲渡益が膨らむ計算になります。つまり「節税した分は、売却時に精算される」という構造になっており、時間軸を含めたトータルでの税効果を慎重に評価する必要があります。
私が直面した試算の誤算:フィリピン物件購入時の実体験
プレセール購入時に描いていた節税シナリオとの乖離
私がマニラ新興エリアのプレセールコンドミニアムを購入を決めたのは2020年より前のことです。当時、日本人向けの海外不動産セミナーでは「耐用年数の簡便法で短期大量償却→損益通算で節税」という説明が一般的に行われていました。私自身もAFP・宅建士の資格を持ちながら、この税務メリットをシナリオの一つとして検討していました。
しかし購入後に2020年改正の詳細が明らかになり、試算を根本から見直すことになりました。私の物件はプレセール物件であるため、竣工・引渡し後に初めて賃貸収益が発生します。その収益が損益通算のベースになると想定していたのですが、改正後は国外中古不動産に該当する場合、その損失は他の所得と相殺できない。この事実を再確認した時の衝撃は今でも覚えています。
ただし、私の物件はプレセール(新築扱い)のコンドミニアムであり、「中古」に分類されるかどうかは引渡し時点の状況と税務上の判断によります。税理士に相談した結果、新築物件として竣工・引渡しを受ける場合は原則として規制対象外になる可能性があることを確認しました。とはいえ、この判断は個々の物件・状況によって異なりますので、必ず税務の専門家への相談を推奨します。
ハワイのタイムシェア運用で学んだ「税務上の性格の違い」
一方、私が保有するハワイの主要リゾートエリアのタイムシェアは、法的な性格がコンドミニアムとは大きく異なります。タイムシェアの多くは不動産の所有権ではなく使用権・会員権的な性格を持っており、日本の税務上の取り扱いも「不動産所得」として単純に処理できるわけではありません。
私の場合、このタイムシェアは主に自己利用と交換プログラムの活用が中心であり、賃貸収益を得る仕組みとはやや異なります。そのため減価償却による損益通算という文脈ではなく、資産の多様化・リゾート利用権の確保という目的での保有です。税務上の処理については毎年、国際税務に精通した税理士と確認を取っています。海外資産に絡む税務は「国によって異なる」では済まず、日本とハワイ(米国)の両方のルールを照合する必要があり、専門家の関与は欠かせません。
現行ルール下での海外不動産投資:活用5戦略の検証
戦略①新築・プレセール物件でスキームの対象外を狙う
2020年改正の規制対象は「国外中古不動産」です。したがって、新築または新築扱いの物件を購入するアプローチは、規制の直接的な対象にはなりにくいと考えられます。フィリピンやマレーシアなどの東南アジアでは、竣工前のプレセール物件が一般的に流通しており、購入から竣工まで数年かけるケースも珍しくありません。アブダビ不動産投資の実体験|宅建士が5つの判断軸で検証した2027年版
ただし、注意点があります。日本の税務上「新築」とみなされるかどうかは引渡し時の状況に依存する場合があり、建設期間が長引いて事実上「中古に近い状態」で引き渡されるリスクも否定できません。また、為替リスク・デベロッパーの倒産リスク・現地法律の変更リスクなど、プレセール固有のリスクも存在します。収益が見込まれる一方で、これらのリスクを十分に認識した上で検討することが必要です。
戦略②賃貸収益そのものをきちんと得る「実需型」投資への転換
規制前のスキームは「減価償却損失を他の所得に当てる」という仕組みに依存していました。しかし改正後は、海外不動産から実際の賃料収入を得て、そのキャッシュフローをプラスにしていく実需型の運用に軸足を移す視点が現実的です。
例えば、フィリピンのマニラ新興エリアでは外国人向けの賃貸需要が一定程度存在しており、現地管理会社を通じた賃貸運用で表面利回り5〜8%程度が提示されるケースがあります(ただし管理費・修繕積立・税金等を控除した手残りは個別に計算が必要です)。節税効果に頼らず、インカムゲイン自体で収支をプラスにできる物件かどうかを精査する姿勢が、改正後の海外不動産投資では中核となります。
戦略③法人保有による損益通算の仕組みを活用する
個人への規制強化に対して、法人での海外不動産保有を検討する投資家が増えています。法人の場合、損益通算の考え方が個人とは異なり、法人内の所得と損失は原則として通算されます。私自身、都内で法人を経営しており、インバウンド民泊事業の運営を通じて不動産に絡む収益・費用の法人内処理を日常的に行っています。
ただし法人保有には、法人設立・維持コスト、海外送金に関する外為法・税務上の申告義務、外国税額控除の適用可否など、個人保有とは異なる複雑な論点が生じます。また「租税回避目的」と判断されるスキームは、法人であっても否認されるリスクがあります。この領域は国際税務の専門家への相談なしに進めることは推奨できません。
法人保有という選択肢の検討:メリットと現実的なハードル
法人スキームが有効に機能する条件と前提
法人保有が有効に機能する条件として、私が保険代理店時代に富裕層の資産相談を担当した経験から整理すると、おおよそ以下のような状況があります。年間の法人利益が一定規模以上あり、海外不動産の運営費・償却費を法人内コストとして吸収できる余力がある場合、個人で保有するより税負担が低くなる可能性があります。また、相続対策として法人株式を活用するスキームと組み合わせることで、資産承継の面でも意味を持つことがあります。売掛金 早期回収 方法7選|AFP宅建士が500人相談で導いた実例
保険代理店勤務時代、個人事業主や医師・経営者層の顧客から「海外物件を法人名義で持ちたい」という相談を多数受けました。当時から感じていたのは、節税効果の試算だけが先行して、現地での管理体制・出口戦略・為替リスクの検討が後回しになりやすいという傾向です。節税はあくまで「結果としてついてくるもの」であり、物件の実力と保有目的が先に来るべきです。
海外送金・外為法・国際税務の三重のハードル
法人で海外不動産を購入する際には、外国為替及び外国貿易法(外為法)に基づく報告義務が発生します。一定額以上の対外直接投資は日本銀行への報告が必要であり、これを怠ると罰則の対象になります。また、現地国での法人税・源泉税と日本の法人税の二重課税をどう処理するかについては、外国税額控除の適用可否を租税条約と合わせて確認する作業が必須です。
さらに、タックスヘイブン税制(外国子会社合算税制)が適用される場合、一定の要件を満たす外国法人の所得が日本の法人所得に合算されるケースがあります。海外不動産を法人で保有する場合、この税制の適用可否も事前に確認しておく必要があります。これらの論点は国ごとに異なるため、国際税務に精通した税理士・公認会計士への相談は必須だと断言します。
まとめ:2020年改正後の海外不動産投資で押さえるべき実態
改正後の現実を直視した5つの実態
- 実態①:損益通算スキームは個人では実質封じられた——国外中古不動産の損失は原則として給与・事業所得との通算不可。2020年以降の申告で適用済み。
- 実態②:売却時に「先送り課税」が顕在化する——規制前に使った償却費は取得費調整を通じて売却益に跳ね返る仕組みになっており、長期保有戦略の再検討が必要。
- 実態③:新築・プレセールは規制対象外となる可能性があるが個別判断が必要——「中古」の定義は物件の状況・引渡し時点で判断される。税務上の確認なしに前提にするのは危険。
- 実態④:法人保有は有効な選択肢だが、外為法・国際税務の三重ハードルがある——設立・維持コストと合わせてトータルで試算しないと、コストが節税効果を上回るリスクがある。
- 実態⑤:節税依存を脱して「実力ある物件」選びへのシフトが必要——改正後は減価償却節税ありきではなく、賃料収入・キャピタルゲイン・為替の3軸で物件の実力を評価する視点が求められる。
不動産トラブルや査定で迷ったら:公平な第三者機関の活用を
海外不動産に限らず、不動産に絡む問題は「情報の非対称性」が生じやすい領域です。私がAFP・宅建士として資産相談を受ける中でも、「売主側の担当者に言われるままに契約してしまった」「査定額が適正かどうか判断できない」という声を多数聞いてきました。特に海外不動産は日本の宅建業法の保護が直接及ばないケースが多く、日本国内での公平な第三者への相談窓口を持っておくことが資産防衛の観点から重要です。
国内不動産の売却・査定・トラブル対応で公平な第三者の意見を求める場合、一般社団法人が提供する査定・相談サービスは選択肢の一つとして検討する価値があります。商業的な利益関係のない立場からのアドバイスを得ることで、意思決定の精度が高まります。専門家への相談とあわせて、下記のサービスも参考にしてください。
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の投資・税務・法務行為を推奨するものではありません。記載内容は執筆時点の情報に基づきますが、最新情報や個別具体的な判断については、各分野の専門家(税理士・弁護士・宅建士・FP等)または公的機関にご相談ください。
【執筆・監修】
Christopher(AFP / 宅建士 / TLC)- 金融・不動産・法人実務の実体験ベースで執筆
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